抜歯を伴う歯科治療を行う場合、さまざまな選択肢迫られることになります。
入れ歯にするのか?ブリッジにするのか?そして、自費治療であるインプラント治療を選択するのかです。
当然これらの治療は、自分の身体に関係することです。今まで生えていた歯を人工物に変えるわけですから、自分にあったものを選択しなければ、食べることをはじめとする私生活に影響が出てきてしまいます。
インプラント治療を薦める歯科も多いですが、そのメリットやデメリット、そして、インプラント治療とはどのようなものなのかを理解しない限り、どの選択でもおすすめはできません。インプラント治療について解説しますので、現在進行形で検討している人は、是非参考にしてください。
最初に説明しておきますが、もしひどい歯周病や虫歯などがある場合は、インプラントの埋め込みを焦っても良いことはありません。最初にそちらを万全な状態にしてから治療を開始してください。
参考:ひどい歯周病を治療せずにインプラントを入れられて、インプラントが次々と抜け落ちていくのを食い止めることが出来た例
インプラント治療とは?
インプラント治療は、スウェーデンの整形外科医であるブローネマルク先生によって確立された治療方法になります。偶然、動物実験で、骨とチタンが結合することを発見し、これが歯科治療に応用できるとして、デンタルインプラントを確立、その研究と発展に貢献されました。
この時の患者さんは、上下の歯がない状態から、インプラント手術後、41年もの間インプラントの歯で生活をしました。
インプラント治療は、虫歯や歯周病、事故などで歯を失った場合、もしくは先天的に歯がない場合などに歯を補う治療が施されます。通常は入れ歯やブリッジなどがその役割を担っていました。顎の骨にチタン製のインプラント体を埋め込み、歯や入れ歯の支えとすることで歯を補うのがインプラント治療です。
インプラント治療の優位点としては、入れ歯やブリッジではしっかり噛めない、入れ歯を使うことへの精神的な抵抗、審美的な問題など解決できるものです。
インプラント治療の流れ
基本的なインプラント治療は次のような流れで行います。
2-1.問診
今までの歯の治療歴、今までの病気怪我などの医科歴、現在の健康状態、栄養状態(サプリメントの摂取なども含む)歯への関心度や価値観、将来像などを確認します。
2-2.診査(検査)
口内の詳しい状況を調べずに、歯科治療を始める事はありません。
インプラント治療に限ったことではないですが、術後のかみあわせなども考慮すると、精密な検査を行わなければ、後々「こんなはずではなかった。」という結論にいたってしまいます。X線CTだけの診断ではなく、特にインプラント治療はその特殊性から十分な診査が必要です。
具体的に行う必要のある項目は以下のようになります。
2-3.診断
歯を失う、失った部分の治療に何が選択肢になるか提案します。インプラント、入れ歯、ブリッジの選択肢は当然ですが、虫歯や歯周病、かみ合わせなど他の治療が必要な場合があります。
口内に歯周病やかみ合わせのなどの問題が発生している段階でのインプラント治療はおすすめはしません。インプラントが失敗する可能性があるからです。
参考事例「上下すべての歯が重度歯周病をセラミックブリッジとインプラントで回復」
2-4.1次手術
麻酔下でインプラント体を骨の中に埋め込む手術です。
埋めたインプラントが歯茎を貫いている1回法、インプラントが完全に歯茎の中に埋まっている2回法があります。
2-5.2次手術
1次手術で2回法を選択した場合に必要です。インプラントに歯肉を貫く部品を付けて歯肉の整形手術を行います。
2-6.仮歯装着
骨結合が確認できたインプラントにプラスティック製の仮歯を装着します。
2-7.最終修復物(上部構造)の製作、装着
仮歯の調整が済み、問題なく経過していれば、仮歯を参考にして最終修復物を製作、装着して、使用してもらい、微調整を行います。
2-8.メインテナンス
インプラント周囲のクリーニングとかみ合わせのチェックを行い、継続していきます。
インプラント治療の場合分け
上記の治療の流れは、歯をすでに失っており、骨の移植が必要ない場合、骨とインプラントの結合を待つ場合です。
この他に歯周病、根の病気や虫歯がある場合、かみ合わせの異常や顎関節症、矯正治療が必要な場合は事前にもしくは並行して治療を行います。
例1)歯周病で口内の細菌が大繁殖しており、インプラントへ歯周病菌が移る可能性が高い場合 |
問診→診査→診断→歯周病治療→1次手術→2次手術→仮歯装着→最終修復物(上部構造)の製作セット→調整→メインテナンス |
例2)歯周病で歯がグラグラしており、かみ合わせがすでに歪んでインプラントに過重負担がかかってしまう恐れがある場合 |
問診→診査→診断→ 歯周病治療、かみ合わせの治療を行う。かみ合わせの治療とは、マウスピースなどを使う顎関節の治療、歯を削ってかみ合わせを調整する、過去に治した修復物の再治療の開始(プラスティックの仮歯に置き換える)、矯正治療など →1次手術→2次手術→仮歯装着→最終修復物(上部構造)の製作、セット→調整→メインテナンス |
例3)インプラントを埋めたい部分の骨が大きく痩せており、骨の移植を事前に行うこと必要な場合 |
問診→診査→診断→骨の移植手術→1次手術→2次手術→仮歯装着→最終修復物(上部構造)の製作セット→調整→メインテナンス |
上記はあくまで一例です。そもそも歯を失うからには歯周病やかみ合わせの異常、根の病気など理由があります。歯を失ってからの期間が長ければかみ合わせが歪んでいたり、残った歯にも問題が生じていることが多く、インプラント治療だけを行うということがないと思われます。
インプラント治療と他の治療の比較
次に入れ歯やブリッジではなく、インプラント治療を選ぶには、それらの差を理解しなければなりません。
インプラント治療 | 入れ歯 | ブリッジ | |
長所 | 噛み応えがしっかりしていること 隣の歯を削らずに済むこと 噛み合わせを維持できること |
多くの歯を一つの入れ歯で補えること 比較的安価なこと |
違和感が少ないこと 噛み応えが自分の歯と変わらない事 噛み合わせを維持できること |
短所 | 外科処置があること 治療期間が比較的長いこと 保険ではカバーされない事 自分の歯よりも免疫機構が弱いこと 強く噛んでしまうこと |
異物感が強いこと 噛み応えがないこと 支えになる歯の負担が出やすいこと 噛み合わせが次第に狂うこと |
両脇の歯を削る必要があること 神経を取る可能性があること |
どの治療がご自身に適しているかは、担当医とよく相談のうえで決めるべきです。入れ歯とブリッジは保険でもカバーされますが、自費の入れ歯やブリッジと比べると、欠点も多く、入れ歯やブリッジであっても保険診療と自費診療は違うものとして検討されるべきでしょう。
参考みんな知ってた?歯医者の保険診療と自由診療の違いがわかる具体例
インプラント治療は現時点では歯を失った時の第1選択になることが多い治療法です。
とはいえ、20代でインプラント治療を行った場合はその後、約60年はメインテナンスを行う必要があります。その後どういったかみ合わせの変化が起きるのか、歯周病のリスクはどうなのか、など予測出来ない、為難い部分が多いのも事実です。
私たちの人生は限りのあるものであり、そのライフステージ、ライフサイクルの中で適切な治療を選択することも忘れてはいけません。
歯を失わないための予防がもっとも重要です。
そして若いうちから定期的なメインテナンスクリーニング、チェックアップを受けること、条件にもよりますが、インプラント治療を受けるライフステージは中年からに持って行きたいものです。
インプラント治療に向き不向きは存在するのか?
インプラント治療の特性上、全員におすすめできる治療ではありません。長い間インプラント治療で、健康的な食生活を送るためには、メインテナンスや日々のケアが大切です。
参考ひどい虫歯になぜなるの?ひどい虫歯ができる原因と治療方法まとめ
- 歯に関心があり、ずっと自分の歯、インプラントを大切に使おうという価値観を持っている。
- 日々のブラッシング、フロッシング、定期的なメインテナンスクリーニングを続ける。
- 外科手術を受けられる全身状態。
- 高血圧や糖尿病などリスクがあってもコントロールしている。
- 歯ぎしりや噛み締めなどの無意識の癖を理解してマウスピースをつける習慣を持てる。
- 費用負担が可能な方
インプラント治療を受ける際の歯科医院の選び方とは?
インプラント治療は、インプラントだけということで完結するわけではありません。歯周病なその他の不調を取り除いてからでないと、きちんとマッチしたインプラント治療ができないのが現状です。結局、治療の受け手側のニーズを十分に理解できるコミュニケーション能力とスキルを持つ歯科医でなければ、的確な治療を実施することが困難です。
参考インプラント治療における名医の条件とは?
インプラントの手術でよく挙がる疑問とは?
インプラント手術について、テレビなどでも取り上げられた時期もありました。
そこから得られた情報などで、手術への恐怖心がある人も少なからずいらっしゃるので、Q&A方式でお答えしたいと思います。
手術は痛くないのか?腫れないのか?
多くの場合は当日に少し痛みがありますが、翌日からは疼く程度です。上顎の奥歯を除いて腫れます。大きな飴玉が入っているイメージです。通常3~4日がピークで1週間以内に治まります。
当院では手術後に痛み止めを飲んでもらい、当日は就寝前まで痛みがなくても痛み止めを続けて飲んでもらいます。翌日も痛み止めを使う方は1/3くらいです。
腫れは悪いものではなく、身体が怪我を治そうとしている反応です。冷やすと余計に長引きますので安静に過ごしてもらえれば次第に引いてきます。骨が硬いほど、怪我の程度が大きくなる傾向があり、腫れも出ます。骨が柔らかい場合はあまり腫れません。一般的に骨の硬さは下顎>上顎です。
神経を傷つける可能性はあるのか?
下顎の奥歯の下には下歯槽管という神経の管が走っています。下顎の奥歯にインプラントを埋める時にこの管を傷つけてしまうと、オトガイ部に知覚麻痺が出ます。
最終的な歯のシュミレーションを行った上で、CTを撮影しているのは神経までの3次元的な位置関係を正確に知る必要があるからです。
鼻を傷つける(副鼻腔炎など)可能性があるのか?
上顎の奥歯の上には上顎洞と呼ばれる副鼻腔があります。副鼻腔を囲む薄い骨や粘膜を触ることがあります。上顎の骨は柔らかいためインプラントが安定し難いことがあります。上顎洞の外壁の骨は薄くても硬いので、この骨にインプラントの先端を噛ませることで安定を高めます。
上顎の奥歯抜歯後時間が経つと、上顎洞が下に落ちてきて、インプラントを入れられる骨の量が目減りします。元々少ない場合もあります。上顎の奥歯にインプラントを埋める場合には骨の量が不足していることが多く、骨の移植を行います。小さな移植から大きな移植まで方法は複数ありますが、いずれも上顎洞の外壁の骨を削り、内部の鼻粘膜を剥がしながら移植剤を填入していく手術になります。
この時に鼻粘膜を傷つけて穴が開いてしまうことがあります。
小さな穴はコラーゲン膜で修復しますが大きな穴が開いてしまった場合は移植手術自体を中止、延期することになります。傷ついた鼻粘膜は時間とともに治ります。無理をしてインプラントを埋めようとして上顎洞の内部にインプラントが迷入してしまう事故があります。これは基本的な手技や原則を守らなかった場合のアクシデントと言えます。
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