普段は気が付かないけれど、疲れた時、寝不足が続いた時になんとなく歯茎が重かったり、腫れぼったくなったりすることがあります。
そのうちに忘れてしまって、歯茎の感じも特に違和感がなくなっているので、忘れてしまっています。
実はこれ、歯の内部の問題が歯茎を通して外に出てきている症状の一つなのです。
フィステルはの意味は「排膿路」です。歯由来の炎症によって生じた膿が歯茎を通して外に出るための出口です。
現在の呼び名はフィステルではなくサイナストラクトと言います。ここでは、皆さんにわかりやすいように並列して記載します。
1.フィステル=排膿路(サイナストラクト)の原因
膿が溜まる原因は大きく分けて2つです。歯根の内側(歯根内の根管)の細菌感染と歯の外側(歯根外の歯根表面)の細菌感染です。
1-1.根尖性歯周組織炎
歯根の内側には歯髄と呼ばれる歯の神経が入っています。神経が壊死して腐敗したり、虫歯菌に感染した場合は神経(歯髄)を除去する治療をします。これを根管治療といいますが、これは非常に難しい治療です。虫歯菌や神経のカスを取りきれない時などは、根管内部に細菌や腐敗した歯髄が残っている事になります。
この細菌や腐敗した歯髄=身体にとって「異物」、を排除するために身体は戦い始めます。これを炎症と呼んでいます。
炎症は異物を排除するために私たちの免疫(白血球など)が戦います。白血球は異物を食べると死にます。1個の白血球は1個の異物で死にます。この死骸を「膿」といいます。炎症が起きると異物を排除するためにたくさんの白血球が作られるのはこのためです。
炎症が広がる時には周囲の骨を溶かして大きくなっていきます。炎症は慢性的に無自覚で進みますが、疲れている時、寝不足、風邪など免疫力が落ちた時はこの慢性炎症は痛みを感じたり、腫れてきます。これは内部で炎症の活動が増したことで膿が増えているからです。
こうして骨を溶かして増えた膿は歯茎の方に出口を求めて出てきます。
初めは歯茎が膨らんだり、凹んだりします。痛みは感じる場合と感じない場合があります。
やがて膿の出口ができると、白い出来物のような小さな膨らみになります。
これが排膿路=フィステル(サイナストラクト)です。
通常、一度できると消えることはあまりありません。
治療をしない限り悪いものが消えたわけではなく、免疫力の良し悪しで表面化するかしないかだけです。
1-2.歯周炎
歯周病は歯と歯茎の隙間に溜まった歯垢内部の細菌が元凶です。
細菌は長い時間をかけて歯を支えている骨や靭帯を破壊します。細菌は歯根の表面に沿って根の先に向かって破壊し続けます。
歯周炎は無自覚無症状で進行する病気です。気がついた時には内部で骨が大きく破壊されていることも
あります。この炎症も根尖性歯周炎と同様、慢性炎症ですが、免疫力の低下とともに膿が増えます。
免疫力の低下した時に膿が一気に増えることで歯茎が大きく腫れます。(歯周膿瘍)歯周炎の腫れは痛みを伴う事が多く、ほとんどの人は痛みと腫れで来院されます。
炎症の程度と進行具合によってサイナストラクト(フィステル)ができる事がありますが、治療を行うことで比較的早く炎症は消退しますので、根尖性歯周組織炎のように長い経過を辿ることは少なく、サイナストラクト(フィステル)がずっとあることは少ないと言えます。
1-3.歯根破折
神経がなくなった歯が長い時間の経過とともに脆くなり、強い噛む力を受け続けると、歯根は亀裂(ヒビ)が入り始め、やがては割れていきます。
ヒビだけでなく実際に亀裂が広がって割れ始めると歯根表面に付着している歯根膜という靭帯は破断してしまいます。歯根膜が歯根表面から剥がれてしまうということは、歯と歯茎の隙間から歯垢や細菌が容易に侵入できることになります。
このため一気に細菌が侵入して骨を破壊しますので、大きく腫れることもあります。
しかし、歯磨きがうまくできている場合はよほど亀裂(ヒビ)が広がらない限り、侵入する細菌の量も限られます。
ゆっくりと、僅かずつ細菌が侵入した場合は、骨を溶かす歯周炎が慢性的に徐々に進行します。
この場合にやはり膿の出口として排膿路=フィステル(サイナストラクト)ができることがあります。
1-4.歯根の穿孔
神経を取った歯に起きるものです。根の治療にともなって偶発的に歯根の内部に穴が空いてしまい、処置に伴って細菌が残っている場合に徐々に細菌が増えて炎症を起こします。
ただし、この場合は歯と歯茎の隙間からかなり距離がありますし、よほど進行しないとはっきりとした診断がつきません。骨が溶けてこない限りX線でもなかなかわかりにくいものです。
排膿路=フィステル(サイナストラクト)も腫れているというより、白い隆起があるという感じです。
自覚症状として違和感や疼きがずっと続くという状態が多いです。
2排膿路=フィステル(サイナストラクト)の治療
2-1.根尖性歯周組織炎
まずは通法では根管治療を行います。根の治療と呼ばれる治療です。歯の頭から穴を開けてラバーダム防湿を行い、根管の内部の細菌や腐敗した歯髄を取り除きます。根管がキレイになれば炎症はなくなり、排膿路=フィステル(サイナストラクト)は消失します。
2-2.歯周炎
急性炎症があり、腫れや痛みが大きい時は、切開して膿を出します。抗生剤の内服などを行なって炎症が静まったところで、歯根表面に付着した歯垢歯石の除去、歯ブラシの励行を行います。
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2-3.歯根破折
歯根破折から排膿路=フィステル(サイナストラクト)が生じた場合はすでに抜歯摘要になります。歯を接着剤で付ける試みもされていますが、力がかかる以上、長持ちはしません。
2-4.歯根の穿孔
根尖性歯周組織炎の治療に準じた治療になります。ラバーダム防湿を行って、穿孔部分の細菌を除去して特殊な薬剤で封鎖すれば炎症が治まる可能性はあります。
ただし、歯根表面まで細菌感染が広がっていると、炎症は治りません。この場合は抜歯、もしくは穿孔部分を取り除くために、部分的な抜歯などが摘要になります。
歯茎にできた白いできものは自覚症状があるものもないものもありますが、歯茎の違和感、歯の違和感や疼きなど疲れた時に感じるようであれば、何かしら問題があると考えてください。
根管治療や歯周炎の治療は炎症が長い経過を辿れば辿るほど治りにくくなり、抜歯に繋がります。
気がついたら自己診断をせずに、早めに歯医者さんを受診してください。