根管治療(通称:根の治療)を行っているけれど、思ったより治療期間が長かったり、痛みが出てきたりと不安に感じる方も多いと思います。実際、当院に訪れた患者様の中には、それが理由で通院を決めた方もいらっしゃいます。
根の治療について、事前に知識を持った上で、ご自身の大事な歯について、しっかり考えていただければ幸いです。
根の治療(根管治療)とは?
歯の中には歯髄と呼ばれる神経があります。神経は、脳から枝分かれして顎の骨の中を通って歯の根の先から歯の中に入ってきます。冷たいものがしみる、知覚過敏、虫歯で歯が痛むのは、歯の中に神経があるためです。
大切な神経ですが、虫歯や外傷で神経をとらなければいけない時もあります。根の治療とは、噛む面に穴を開けて、根の先まで神経を取ります。神経やばい菌が根の中に残らないようにきれいにして、できた空洞を代わりの材料で埋めます。
歯髄は、上記の模型で言えば、歯の中のピンク色の部分になります。
虫歯菌が歯髄に達すると、強い痛みと共に歯髄炎になります。歯髄炎が続くと、やがては歯髄を腐らせ(壊死)、さらには歯髄が入っている根の隅々まで腐らせていきます。
こうなると、歯の中、歯の根の中にある傷んだ歯髄(神経)や腐って壊死した歯髄は全て取り除かなければいけません。
そこで、私たちは「根の治療」と呼ばれる、歯髄を取る治療を行います。
根の治療が必要になる症状とは?
1.歯髄(神経)の痛みが治らない場合(歯髄炎)
虫歯治療で歯を削った後に、数日~
これは、歯を削った刺激で中の歯髄(神経)
神経が脈を打ったように痛みが続く(特に寝る前) 冷たいもの、熱いものでしみた後ジーンといつまでも痛みが残る
2.歯髄が壊死している場合
痛みがある時は歯髄(神経)
痛みがなくなりますので、「治った」
体は異物を出そうとしますので、
噛むと痛い。 どの歯が痛いかハッキリ分かる。何もしなくても痛い。疲れたり、風邪を引いた時に痛くなる。歯茎が腫れて痛くなる。
3.虫歯が根の中まで侵入した場合
虫歯が進んだ結果、歯髄(神経)は壊死します。それでも放っておくと根の内部にばい菌が侵入してきます。元々、歯髄は根の中に無数の穴を通して入り込んでいます。ばい菌も無数の穴に入り込むため骨の中に膿が溜まる病気になります。
この場合の根管治療は歯髄(神経)を取るのとは違い、根の中のばい菌を取り除く必要があります。
4.根の治療のやり直し
すでに、根管治療が済んでいる歯ををもう一度根管治療を行う場合です。
理由は2つ。一つは前回の根の治療が失敗に終わり、根の先に膿が溜まる病気ができている場合。そしてもう一つは、前回の根の治療が不完全であり、根の中にばい菌が残っていることが推測できる場合。
例えば、銀歯が虫歯になり、セラミックの歯に作り替えるような場合で、根の治療が不完全だとします。新しくセラミックにしても、根の先に膿が溜まって病気になったら、せっかくのセラミックも根の治療をするためにやり直しになってしまいます。こういう場合は膿が溜まっていなくても、痛みがなくても未然に病気を防ぐ意味で根の治療を行います。
上記の画像は、根管治療をやり直す前の画像です。先端まで根の治療が至っていないことがよくわかります。
そして、上記が術後になります。先端部分まで残さず治療ができています。
根の治療にかかる期間は?
当院に来院される患者様には、半年以上根の治療を行った結果、完治に至っていない患者様が実は多いのです。よくなっていることはあまりありません。虫歯が進行して、根の中もばい菌が増えて根そのものが傷んでいることがよくあります。
根の治療は短期での治療がベスト
根の治療の目的はズバリ、「根の中のバイ菌を無くすこと」です。
悪さをするのは、ばい菌です。そして口の中はばい菌だらけです。歯にも唾液の中にもばい菌は無数に存在します。根の治療を行うにあたり、ばい菌を入れないようにするラバーダム(ゴムのマスク)は必須です。
しかしながら、完璧は存在しません。何度も治療を繰り返すということは、それだけばい菌が感染するチャンスを増やします。したがって、根の治療はラバーダムをしていてもできるだけ回数を減らしたほうが感染の機会は減っています。
なお、当院で治療した場合の根管治療の期間は以下のようになります。
・根の先に膿がたまり、骨が溶けている場合は4~6ヶ月
・以前の根の治療が不完全で、骨が溶けていない場合は即日~1ヶ月
根の治療を安全に行うためには?
顕微鏡を使う。
肉眼での治療には限界があり、倍率3~21倍の顕微鏡を利用します。顕微鏡を使わない勘に頼った治療を行った場合には、次のようなリスクがあると考えられます。
根の穴を見落とす
歯の種類によって根の穴の数はある程度決まっています。しかしながら、イレギュラーな根の穴は肉眼では発見することはほぼ不可能です。 特に壮年期以上の歯髄は狭小化が起こっているため、小さくなっており、顕微鏡でも見落とすリスクがゼロになるわけではありません。
歯髄の取り残しが出やすい
歯髄はとても入り組んだ形をしています。神経を取る道具は断面が丸ですので、ただ抜き差ししているだけでは必ず取り残しが出てしまいます。歯髄の3次元的な形を実際に見て、確認することで取り残しを無くします。
歯のヒビを見つけることができる
歯髄がなくなって時間が経つと、時として歯にヒビが入ってきます。ヒビから割れ始めると痛みが出てきます。この場合はどれだけ根の治療をしても治りません。顕微鏡では、根の壁面のヒビは確認出来ます。適確な診断を行うことで無駄のない治療を行うことができます。
歯の穿孔部を確認、治療できる
狭小化した歯髄の根の治療は難しいものです。アクシデントとして歯に穴が開いてしまうことがあります。穴からバイ菌が入るとやはり骨が溶けていきます。この場合は、顕微鏡で穴を確認、周囲のバイ菌を取り除き、特殊な材料で封鎖することで骨を治して、再び歯を延命することができます。
菌の感染を防ぐラバーダム防湿
ラバーダム防湿とは、根の治療を行う歯を口内のバイ菌から防ぐための手技です。特別なものではなく昔から教科書に出ている方法です。根の治療の目的は、根の中のバイ菌をなくしてキレイにする事です。唾液中、歯に付着した歯垢には無数のばい菌がいます。ばい菌を無くそうとしているのに、ばい菌から守らなければ治療の度にばい菌を根の中に招き入れているようなものです。(二次感染)
日本の保険診療ではラバーダム防湿を使わないで根の治療を行うことが多いです。日本の保険診療で根の治療は非常に低い報酬に抑えられています。元々多くの患者さんを短時間で診なければ収益が上がらない仕組みですので手間がかかるものは敬遠されます。保険診療でラバーダム防湿を行う先生がいたら、患者さん思いの良医です。
何度もラバーダム防湿をしないで根の治療を行うことは歯の寿命を縮めていることと変わりません。根の治療を行う時だけでなく、アポイントの間や治癒期間の間もばい菌が入らないような工夫は必要です。
そのためには、根の治療の前に虫歯を徹底的に取ります。虫歯が残っていればばい菌がそのまま根の中に入るからです。
根の中に絶対に歯垢、唾液が侵入しないように、強度のある壁を作ります。仮詰めも柔らかい材料は使いません。削ってでしか取れないような硬い材料で蓋をします。
数ヶ月の間にアクシデントがある場合もあります。万が一を考えて蓋は2重にします。
根の治療の流れ
ここではざっくりと説明をします。後ほど、根管治療の手順について解説を行う記事を追加します。
根の治療にかかる費用は?
保険治療と自費治療で行うのとでは当然費用が異なります。保険治療の場合は、料金を安く抑えることができるメリットがありますが、半年以上治療に進展がないこともありますので、はやく正確に治療したい場合は、自費治療がおすすめです。
保険治療の場合
3千円~5千円程度
当院の場合
根の治療 40,000~90,000円 仮歯制作費用は30,000~35,000円
根の治療で実際にあった質問
根の治療中に歯が痛くてたまりません。これは仕方がないことなのでしょうか?
処置中の場合ですと、炎症が強い時ほど麻酔は効きにくいので痛みが消えない場合があります。こういう場合は最後まで行わず、痛みが引くような治療を行い、次のアポイントで炎症が治まってからあらためて行います。
2段階に分けることで麻酔が効くようになり、痛みはなくなります。また神経が無い歯の場合は保険では麻酔を行わない歯科医院が多いと思います。神経の無い歯の根の治療に麻酔は請求出来ないからです。当院ではほとんどの治療で麻酔を使います。痛みを感じない歯の治療が望ましいと考えています。
治療後の痛みは多少は出ます。根の先を刺激していますので避けられない部分があります。痛み止めや抗生剤で抑えられる程度のものがほとんどですので、歯科医院で処方してもらいましょう。
最初のレントゲンによる診断で、予防のために神経を抜いた方がいいと言われました。実際これはありうることなのでしょうか?
保険診療では虫歯が神経に近い場合だと、初めから神経を取るつもりで治療を始める事があります。
保険では、やっぱり神経を取る、とか様子を見る、といったやり直しや曖昧な部分には報酬で評価されにくいのです。患者さんに痛いと言われるないように事前に取るという先生もいます。何十年も前から神経を保存するための治療方法は存在します。新しい薬剤もありますが、顕微鏡を使う事で神経を残せる可能性は高まったと思います。