歯の神経を取る治療(根の治療)を成功させるために必要なこと
足のつま先や背中など、身体の隅々まで神経がゆき届いているように、歯にも一本ずつ神経がゆき届いています。歯が熱い冷たいを感じるのはこの神経があるおかげです。虫歯で痛みが出るのも神経がサインを出してくれてるんですね。その大事な神経(歯髄)ですが虫歯が進んでばい菌に感染すると神経(歯髄)が傷んでしまいます。軽傷を超えると神経は残しておけません。歯の頭から穴を開けて、歯の根の先まで神経(歯髄)を取る治療を行います。神経のカスや、ばい菌が根の中に残っているとあとで、根の先に病気が出来てしまうからです。ところが、根の治療が失敗に終わっている歯を毎日のように治療しています。どうしたら、根の治療を成功させることができるのでしょうか。
根の治療の失敗とその原因
1.痛みが取れない
神経は歯の根の中に複雑な形で入り込んでいます、太い幹から枝分かれしたような感じです。私たちは太い幹は針で取れますが、枝分かれした細い先は薬と超音波洗浄で除去します。神経の取り残しやばい菌が取り切れていない場合は痛みが引かないことが多いです。乱暴な治療や長期間痛みを我慢し続けると痛みを覚えてしまうこともあります。*画像は根の中に薬をいれて超音波洗浄をしているところです。
2.顕微鏡を使っていない
顕微鏡を使って複雑で入り組んだ根の中を観察しながら治療を行うことはスタンダードになりました。特に再治療や年配の方では、根の管が狭くなり見つからない、ヒビや穿孔(間違えて開いた穴)を見落とす、など顕微鏡を使わないで問題が起きなければ幸運だと考えるほどです。
青い矢印の先が根の中にあるヒビ、つまり歯が割れている部分です。歯の運命を左右する大切な診断ができます。
3.ラバーダム防湿をしない
根の治療を行う時にゴムのマスクで唾液が入らないように覆います。根の中に唾液や歯の表面に付着したばい菌が入ってはいけません。基本的なことですが、保険診療ではその煩雑さから省かれることの多いステップです。
4.治療回数が多い
ラバーダム防湿は基本的で不可欠ですが、治療回数が多くなれば感染の機会は増えます。なるべく少ない回数で治療を終えることがばい菌が入り込む機会を減らすことになります。よく、神経を殺すのに、根の消毒に毎週通って大変だったとか聞きますが、逆効果です。正しくは、1~2回で終了です。根の先の病気の経過を追ってもプラス1回が基本です。
5.使ってはいけない薬がある
歯医者さんというと、ツーンとした匂いをイメージする方もいるでしょう。神経を殺すという説明のあるホルマリン系の薬です。これはタンパク質を固定する(理科室のホルマリン漬けですね)効果があり、神経のカスが残っていても痛みを消すことができます。ところが、タンパク凝固を起こした神経(歯髄)は体にとっては異物ですので、あとで異物排除機転がおきて、根の先で骨が溶けていきます。何度も短時間の治療で匂いがすればこの薬の可能性が高いです。
6.保険診療の限界
ここまでお読みになってわかるように根の治療はとても難易度が高く、時間と手間がかかります。回数が少ないということは1回当たりの時間が多いということです。当院では60~90分の時間が基本です。時間と、顕微鏡、ラバーダム防湿などを考えると、現在の健康保険の診療報酬の額の4~6倍程度は必要です。少ない時間と低い報酬で真摯に取り組んでいる先生が少なからずいるのが日本の素晴らしいところです。一方、おろそかになっている現状も多々見られます。
まとめ
ここまで失敗と原因を挙げてきました。どんな治療でも100%がないのが治療ですが、失敗率を下げるには、原因を減らすことが最優先になります。この他にも新しい薬や短時間できれいに根の神経を取る器材など根の治療を成功に導く要素は少しづつ増えています。しかしながら、歯科の臨床の現場でもっとも大切なことは常に120%の力で丁寧に治療をすること、原理原則を守ること、そして諦めずにやり切ることです。