噛み合わせがよくないとはどういう状態か?
そもそも噛み合わせがよくないとはどういった状態を言うのでしょう?
噛み合わせとは「上下の歯が接触している状態」です。
「歯並び」は見た目を重視した表現ですが、「噛み合わせ」は見た目だけではなく、食べるための歯も含めています。
噛み合わせがよくないといっても様々な状態がありますので、ここではいくつかに分けて説明します。
元々、理想的なかみ合わせの人は、滅多にいません。
しかしながら問題が起きやすいタイプとそうでないタイプはあります。
まずは、よくない噛み合わせの例を紹介します。
よくない噛み合わせ
- 上下の相対的な位置関係が前後にズレている→出っ歯、受け口
- 上下の歯が上下や左右均等に噛んでいない
- 噛み合わせが浅すぎる、深すぎる
- 前歯が噛んでいない
- 口唇を閉じることができない、閉じる時にオトガイが緊張する
- 正中(前歯の真ん中)が上下でずれている
- 部分的な歯の位置異常→ねじれている、前後左右に斜め、
- 歯が足りない、歯が抜けたまま
大人になり、噛み合わせが出来上がってからのよくない噛み合わせには以下のものがあります。
- 抜歯をした後、隙間を放置してしまうことで噛み合わせが狂ってくる。
通常、歯は噛み合って隣り合って位置が保たれている。抜歯で隣や相手方がいなくなると、自然と動いてしまう。伸び上がる(挺出)、傾く(傾斜)など。 - 無意識の癖で噛み合わせはズレる。
舌を突き出して歯を押す癖、爪を噛む癖、頬杖、片方でしか噛まない、バイオリニスト、寝る姿勢がいつも偏っているなどの癖は噛み合わせがズレやすいなどがあります。 - 口呼吸で噛み合わせはズレる。
口呼吸は子どもから大人まで非常に多く認められます。自覚していない場合が多い。口輪筋の支えがなくなるため、前歯が出っ歯のように動いてしまいます。 - 歯の治療が増えると噛み合わせは不安定になる。
特に奥歯は歯を作る時に、保険治療では治療前と同じように噛むようには作りません。天然の歯と全く同じように作ることが出来ないのと、 天然の歯と同じように当ててしまうとセラミックが割れたり、外れやすくなったりします。治療といってもあくまで修理ですので、患者さんの今の噛み合わせに邪魔にならないように最低限しか当てません。ところが、元々はもっと噛んでいたはずの歯が噛みにくくなるため、残された歯は負担が大きくなります。一本一本、治療した歯が増えていくと、患者さんはとても噛みにくくなり、噛み合わせは不安定になってしまいます。 - 入れ歯を長期間使うと噛み合わせはズレやすい。
入れ歯は樹脂製が多く、歯より先にすり減ってしまいます。特に奥に歯がない入れ歯は噛むと歯茎に沈み込むため、かみ合わせがズレても患者さんは気が付きにくいものです。結果、気がつくと入れ歯の歯がすり減った分だけ、周りの歯が動いてしまいます。 - 歯ぎしりで歯が過剰にすり減ると噛み合わせはズレやすくなる。
歯ぎしりは無意識で歯を擦り合わせています。その力は通常の噛む力の数倍と言われており、大切な歯がどんどんまっ平らになっていきます。本来、歯は山と谷で噛み合うものですが、まっ平らになってしまうと噛み合う所がなくなっていきます。 - 噛み締めで噛み合わせがズレる。
無意識の噛み締めは非常に多くの人に見受けられる癖です。過剰になると、噛み合わせは歪んでいきます。例えば、右奥で噛み締める場合は奥歯が沈み込んでしまいます。 - 顎関節症で噛み合わせがズレる場合がある。
顎関節症は色々な症状の集まりですが、原因の多くは筋肉の過緊張や、関節内部の軟骨のズレです。関節内部の軟骨のズレはマウスピースを使った治療が有効です。または時間とともに身体と適合して治ります。関節の内部でこういった変化があると、噛み合わせそのものがズレてしまうことがあります。また、DJD(degenerative joint disease)という顎関節に負荷がかかりすぎた結果、関節が吸収して溶けてしまうこともあります。この場合は、突然噛み合わせが変化します。
よくない噛み合わせを治す方法とは?
- 抜歯をする前にその後の治療方針を決めておき、不断なく治療を進めること。もしも歯が移動してしまった場合は、矯正治療で元の位置に近づけるか、歯を削って被せる(クラウン)などの治療で対応する。
- 無意識の癖は意識をして治すことができるものもある。(行動認識療法)重度の癖は原因があるはずであり、心理カウンセリングで治す事ができる。(例えば、爪を噛むことや、貧乏ゆすりは潜在的な不安があることが多い。)
- まずは意識をして口を閉じること。鼻炎などがある場合はその治療を行う。口輪筋の緊張が戻ると、前歯の噛み合わせは自然と治る場合がある。
- 治した歯を一度プラスチックの仮歯に置き換える。仮歯は足したり引いたりすることができるので、噛み合わせを調整して、筋肉や関節に調和した噛みやすい噛み合わせに安定するまでリハビリテーションを行ってから最終的にセラミックや金属のクラウンで治す。
- 入れ歯の歯を樹脂製からセラミックや金属製にすることで歯の咬耗を少なくする。歯茎にあたる面は数年に一度は裏打ちが必要。ズレが大きくなってからだと、義歯を作り変えることになる。相手型の歯がすでに動いてしまうと、その歯に引っ込んでもらうことが噛み合わせを元に戻すことになります。これには歯を削って被せるクラウンの処置があるが、動く量が多いと神経(歯髄)も取らなくてはいけなかったり、歯茎の手術が必要になる。
- 歯ぎしりは音がするので、家族や友人が気づく場合が多い。まずは極力歯を守ることが重要で、専用のマウスピースを作る。歯ぎしりの癖は意識しても治せない。無意識にアクセスする心理カウンセリングが有効。(例えば、歯ぎしりがある人は心に怒りや悲しみを抑圧していることが多い)完全にすり減ってしまったら、歯を削って被せるクラウン治療が有効。この場合もマウスピースは使いながら、そして術後もマウスピースを使い続ける。
噛み締めの癖はやはりマウスピースが必須です。重症の人は日中も噛み締めているので元の噛み合わせに戻すことは期待できませんし、こういうタイプの方は思春期の噛み合わせが出来上がる以前から噛み締めているので、大きくは変えられません。
しかしながら、マウスピースで力を逃がすことによりズレは小さくなり、問題が起きないレベルで安定させることを目指します。
よくない噛み合わせを治療しないと起こるかもしれない体の不調とは?
ここでは上下の歯の噛み合わせから、一歩引いて考えてみます。
そもそも下顎は頭からぶら下がっています。両耳の脇に顎関節があり筋肉で動かしています。下顎の位置を確実に固定するのは噛み合わせの役目ですが、噛み合わせが不安定になっているとしたら、筋肉や顎関節など周りに悪い影響を及ぼす事が想像できます。
口が開きにくい。
よくない噛み合わせのままだと、噛みにくさが現れた結果、噛む筋肉が緊張します。日常的に筋肉がこっているので、口を開けようとしても筋肉でブレーキをかけて口が開きにくくなってしまいます。
顎が痛い。
顎の関節に負担をかけますので、軟骨のズレて口の開け閉めで音と共に痛みを伴うことがあります。関節周囲の筋肉や靭帯が疲労しますので、耳の前を触ると痛みを感じます。
頭が痛い
噛む筋肉はいくつかありますが、特に口を閉じる筋肉(閉口筋)は大きく、過緊張になると筋肉痛になります。こめかみは頭痛でよくある場所ですが、これは側頭筋という噛む筋肉です。噛む行為は周りの筋肉も連動しますので、首や後頭部まで痛みが出ることがあります。
首がこる、肩がこる
噛み締めている場合、多くは首のコリを伴います。肩とも繋がりますので、肩まで痛くなる場合もあります。マウスピースで首が楽になったという患者さんは多いです。
姿勢への影響、全身への影響
全身への影響は分かっていないことが多く、曖昧な部分です。
しかしながら、治療の結果、腰痛が治った、風邪を引かなくなったなど感想を頂くことは稀ではありません。噛み合わせが安定することは首肩周りの緊張が解けて、姿勢にも影響します。頚椎から脊椎など私たちの姿勢と自律神経系は連動していると考えても良いのではないでしょうか。噛み合わせを治したから病気が治るとは言えませんが、原因の一つになっている場合があることも事実だと思います。
精神的な負担が多くなる。
噛み合わせが不安定な状況に患者さんの意識がフォーカスされ続けると好ましくない状況に進みます。人は不安定なりにバランスを取っていますが、バランスが取れていないことを気にしすぎたり、身体の具合の悪さを噛み合わせと結びつけすぎると精神的に不安定になりやすいものです。
まとめ:噛み合わせの治療で大切なこととは?
噛み合わせは歯だけで決まるものではありません。筋肉、顎関節、もちろん心理的な要素もあります。状況にもよりますが、一般的には保存的な治療(削らない、マウスピース、行動認識療法、心理カウンセリングなど)から始めるべきです。
とくにスプリントと呼ばれるマウスピースは多用されます。筋肉の過緊張を解き、顎関節の負担を和らげ、顎の位置を修正してくれるからです。
こういった一連の保存的な治療の反応を確認して、必要があれば、次の治療に進みます。 噛み合わせの調整、矯正治療、クラウン(セラミック)治療などです。
もし、初めから噛み合わせの調整をしたとします。上手くいけば良いですが、診断も記録もせずに治療を行った結果、悪い方向に進んでしまうこともあり得るのです。
こうした行き当たりばったりの治療を受け続けてから来院される方もいらっしゃいます。
ただでさえ、難しい噛み合わせの治療はさらに複雑に困難になっています。
噛み合わせの診査や記録なしに、安易に噛み合わせを調整するといって歯を削ることはリスクが高く、慎重に進めていくべき治療だと考えています