すでに歯医者さんで治療を受けた後に「銀色の詰め物や差し歯が取れた」経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか?
取れた詰め物や差し歯を歯医者さんで付け直してもらったかもしれません。では付け直した場合には長持ちするのでしょうか?当院にお見えになった方の事例をご紹介して付け直す基準をご説明します。
右下の金の詰め物が取れる
50代男性のAさんは、以前に治療した右下の金の詰め物が取れてしまい、治した歯医者さんへ行きました。
歯医者さんは何も言わず、「では付け直しておきましょう」といって接着剤で付け直しました。
ところが、1ヶ月も経たない内に同じ詰め物が外れました。再び同じ歯医者さんへ行くと、今度はもっと強い接着剤で付けると言います。「初めからそうすればよかったのでは?」といささか不信感を抱きましたが、これで取れないならと思い、付け直してもらいました。
しかし、またしても詰め物は食事中、特に硬いものでもないのに関わらず外れました。気をつけて食事をしていたのですが、さすがにAさんもたまりかねて歯医者さんでなぜ何度付けても取れるのか問いただしました。歯医者さんはここで初めてAさんが歯ぎしりをするから、詰め物が取れるのだと言いました。Aさんは奥さんにも歯ぎしりを指摘されたことがなく、増々この歯医者さんに不信感を抱き、当院にお見えになりました。
何が起こったのか?
Aさんから、一通りの説明を伺い、お口の中を診ます。なぜ、付け直しても外れるのか、理由がわかりました。
- 長年の噛み締め(歯ぎしりではなく噛みしめる癖)で奥歯がすり減って負担が大きくなっており、すり減って薄くなった詰め物にも相当の力がかかっている。直した当時とは環境が変化している
- すり減りの過程で歯が欠けたことで、金属と歯との間に隙間が出来ている。ここから接着剤が溶け出したと考えられる。
- 中は虫歯になっている。接着剤が溶け出した代わりに隙間に唾液や食べかすが入り込み、中の歯は虫歯になっている。
- 上記の状況に加えて現在も続く噛み締めの癖があるため、無意識で噛み締めの強い力がかかるとすり減った金属の詰め物は簡単に取れてしまう。
つけ直すポイントは?
Aさんに限らず、何度付けても取れてしまうという悩みはよく伺います。
歯医者さんの対応に「強力な接着剤」というフレーズが出てきます。実際に強力な接着剤はあるのですが、金属や差し歯の場合、外れない重要なポイントは、接着剤をつけなくとも「しっかりと嵌っているか」と、噛合せです。
中に虫歯があれば、もちろん早期に虫歯の治療をすべきです。しっかりつけ直してしまうと、よほど痛くならない限り忘れてしまう方もいます。
これをつけ直すには、以下の条件が必要になります。
- 外れた詰め物や差し歯が元の歯にしっかりと嵌まる
- 中が虫歯ではない
- 外れたものがすり減りで薄すぎる場合は不可能
- 歯と詰め物、差し歯の間に隙間が少ない方が良い
- 現在の噛合せに適した詰め物や差し歯であるか?
- 歯ぎしりや噛み締めの癖がある場合は、次は早期に取れる場合が多い。マウスピースなど歯を守ることも外れにくくする条件の一つ(参考:マウスピースは嚙みしめと歯ぎしりの改善に有効ですか? )
などが挙げられます。
行った治療
Aさんの歯は虫歯がずいぶんと進んでおり、また無意識の噛み締め癖があること、詰め物では噛む力に耐えられないことなどの条件があり、金属の被せ物として新しく歯を作ることになりました。
すでに7年が経過しています。噛み締めの癖はありますが、マウスピースも併用して、歯を長持ちさせるています。Aさんのように噛み合わせの問題を抱えているが、自覚症状もない事はよくあります。
虫歯や歯周病を見つけるのと同じように噛み合わせを診ることが歯を長持ちさせる鍵になっています。
しかしながら、噛合せは相当の知識と訓練を積まないと僅かな時間で診ることが難しい分野でもあります。当院では卒後依頼、噛合せをベースとした治療を積み増さねており、噛み合わせを適時に判断して治療に生かすことが可能です。
つけ直してもすぐに外れてしまう場合はセカンドオピニオンを取ることも検討してください。