北川デンタルオフィスの北川です。
歯科医の立場から見ても、タバコは健康被害を生むものです。
タバコを吸っている人の口内にはどのような現象が起こっているのか、歯科医の立場で解説をしていきます。
タバコを吸うとはどういうことか?
かつてはタバコは「嗜好品」であり、「習慣」と位置づけられていました。
タバコには代表的なニコチンだけでなく、約5300種類以上の化学物質、発ガン作用があるのが70種類と言われています。
ニコチンはタバコの煙を吸って7秒後には脳に達しています。
喫煙者はニコチンの血中濃度を吸う深さと頻度で調整しています。
ニコチンの薬物依存(身体的依存)と心理的依存の2つからなるニコチン依存症(薬物依存症)=精神疾患と捉えられています。
現在ではタバコはニコチン依存症であり、タバコを吸うことは「ニコチン依存症とその関連疾患からなる喫煙病」という全身の病気で、「喫煙者は積極的禁煙治療を必要とする患者(タバコの犠牲者)」という考え方が基本になります。
歯茎が黒くなる。歯周病への影響のメカニズムとは?
お口はタバコの煙に触れる最初の臓器です。
煙が直接触れる影響と血液中からの影響と両方から影響を受けています。
喫煙者はタバコを吸うと指先が冷たく感じた経験が少なからずあります。これはニコチンの血管収縮作用です。
口の中では歯肉の毛細血管の血流量が減少して、酸素や栄養が行き届かないために次第に脆弱な組織に変化します。
血流量が少ないということは免疫が低下して、組織の炎症反応自体も低下します。
つまり、細菌が毒を出して攻撃しているのに、歯肉は腫れる事も血が出ることもできなくなるのです。
歯茎から血もでなければ腫れもしない、歯周病に気がつく可能性が極めて少なくなります。
やがて歯肉は血の流れが極めて少ない硬い繊維質の組織になります。肘や足の裏の角質のようなイメージです。
メラニンの色素沈着は喫煙者に特徴的に多く、タバコの頻度や喫煙経験に寄ってその黒さが比例します。
ニコチンは免疫力を下げるため、本来、身体を守ってくれる白血球の能力が低下、粘膜面の免疫を担う免疫グロブリンA(IgA)、細菌と戦う(IgG)の力も低下するため、歯周病が発症進行するにはこれ以上ない環境になります。
また、受動喫煙でもメラニン色素沈着は起こります。親がタバコを吸うことで吸っていない子供の歯茎が黒く変色していきます。受動喫煙は副流煙によるものだけではなく、タバコ煙・残留成分による衣服や家具などへの沈着による3次受動喫煙(こちらのほうが濃度が高い)が問題となっています。
目に見える有害物質は1割で、吸った後も吐く息から数時間は出続けています。換気扇の下で吸えば良いというものではありません。
タバコを吸っている人に口臭があるのはなぜ?
さらに詳しく
タバコを吸っている人は口臭があります。
- タバコのニコチンやタールによるもの
- 歯周病の発症・進行によるもの
- 歯面にニコチンやタールなどが付着して着色すると同時に粗造な面になるため歯垢が付着しやすくなるため
口内のがんなどの発症に影響は?
歯の健康に関わらず、喫煙はがんのリスクを高めることになります。
肺がんとの因果関係でテレビで著名人が反論しています。2016年には日本タバコ産業株式会社(JT)の反論に対して国立がん研究センターでは完全にその因果関係を科学的に立証してJTの反論を論破しています。
タバコと関係のあるがんは、鼻腔・副鼻腔がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胃がん、膵臓がん、膀胱がん、子宮頸がんなどがあります。
遺伝的にがん家系ではないからという方もいますが、COPDという病気があります。慢性閉塞性肺疾患といい、肺が酸素を取り込めなくなる病気です。酸素ボンベがないと生きていけません。
他にも脳卒中、結核、狭心症や心筋梗塞、腹部大動脈瘤、抹消の動脈硬化、糖尿病、早産、低出生体重、胎児の発育遅延など様々な病気と関係があります。
百害あって一利なしの喫煙。歯の治療にも影響があるので注意
ヘビースモーカーになると完全に病的な状態になります。
端的に言うと、喫煙者の歯周病を治すことはできません。
インプラントも感染のリスクが大きく、骨との結合が危ぶまれて治療を行えません。
喫煙の期間や程度にもよりますが、軽度の喫煙であったとしてもその累積されたタバコが歯周組織にどういう影響を与えるかについては良いことは一切ありません。自分の歯で生涯を過ごしたいならタバコは最大のリスクです。
歯がなくなってもインプラントがあると思っている方がいます。自分の歯を失うくらいタバコを吸って歯周病があれば、絶対にインプラントはできないのです。早い内におタバコを卒業されることを強くお勧めします。
まとめ
タバコを吸うことはタバコの犠牲者なのです。受動喫煙は今まで考えられてきた事よりも想像をはるかに超えて周囲の人に病気の種を撒き散らしています。歯周病はもちろん、がんや死に至る病気を予防できるもっとも確実で簡単な方法が禁煙(卒煙)です。