歯医者さんで痛くもないのに神経が死んでいると指摘を受けたことはありませんか?また、虫歯を放置していたら、お口の中から腐った臭いがしたことがある人もいるかもしれません。私たちの歯の神経は時として痛みなく壊死したり、びっくりするくらいの臭いを発したりします。
歯髄壊死とは?
私たちの歯の神経は歯髄と呼ばれます。歯髄は脊髄のように白い神経ではありません。血の流れのあるお肉のような組織です。つまり健康な歯の神経は血が通っているのです。ところが、様々な理由で神経=歯髄の血の流れ=血流が途絶えてしまい、歯髄が壊死してしまうことがあります。歯髄が壊死すると、歯髄とは呼ばず根管内容物といいます。壊死して腐ってしまった組織はすでに自分の体の一部とは認識されず、カラダは異物と認識します。刺さった棘が時間とともに体から排出されるように、壊死した歯髄(根管内容物)も異物排除機転が働きます。元々歯髄は歯根の先端から入ってくるため歯根の先端部で異物排除機転が働くことになります。歯根先端に炎症反応が起きて骨が溶けていきます。こうして壊死した歯髄をそのままにしておくと、歯根の先端に炎症を起こし骨を溶かして痛みやひいては抜歯の原因となります。
なぜ歯髄は壊死するか?
歯髄への血流が止まる原因はいくつかあります。
1.過去に深い虫歯治療
虫歯が進むと歯髄の中にある細胞が自分で歯を作り出します。自分で殻を作るようにして自分の身を守るのです。 虫歯はゆっくり進みますが、歯髄は保たれます。同時に歯という殻を作ることで歯髄自身は小さくなっていきます。歯髄が小さくなるということは歯髄の血流も少なくなるということです。やがては歯髄への血流が途絶えてしまい、歯髄は壊死に至ります。
2.神経を切断した治療の経験
永久歯が生えてきて間もない時期に歯髄に達するような虫歯が起きた場合には歯髄をすべて除去せずに、一部だけを取り除き歯根の歯髄は温存する治療を施します。(生活歯髄切断法)なぜなら、生えてきたての永久歯は歯冠部(歯の頭)は出来ていますが、骨の中にある歯根は未完成のまま生えてくるのです。歯根の歯髄を生かしておくことで、歯根を先端まで完成させることができるのです。ところが成人になって時間が経つと残された歯髄は血流が少ないため次第に壊死に至ります。
3.歯ぎしりや噛み締めなどの歯への力のストレス
歯髄は虫歯だけではなく日々の噛む力のストレスでも殻を作ります。歯ぎしりや噛み締めなどの強い力のストレスが続けば殻を作る速さは加速します。こうして歯髄の血流が少なくなり時に歯髄壊死に至ります。
4.被せものなどの治療をした場合
歯髄をのこしたままセラミックや金属の被せもの(クラウン)の治療を行うことがあります。歯髄がある方が歯が長持ちするためですが、年月とともに内部の歯髄の血流が途絶えてしまい歯髄壊死が起きることがあります。クラウンにする場合はすでに虫歯が進んでいることが多く治療を行う時点で歯髄が小さくなって生命力が少ないことが少なくありません。また歯を削ったり、治療の過程で歯髄がダメージを受けて回復しないこともあります。
歯髄壊疽とは?
歯髄壊死が起きた状態で細菌感染を起こしたものを歯髄壊疽といいます。通常歯髄壊死は細菌の感染がない状態でおきますが、引き続き細菌感染が起きると(虫歯の進行や歯の破折など)内部の壊死した根管内容物が腐敗して強い腐敗臭を発します。
この症状を患っている場合の代表的な症状とは?
何もしていなくても感じる強い痛み 口内から強い腐敗臭 噛むと痛い
治療の際に注意すべき点とは?
治療は通常の根管治療と変わらず、感染歯質(虫歯)の除去、再感染を防ぐ簡易的な仕組み、ラバーダム防湿、顕微鏡下での根管治療を行います。 腐敗臭が強いので患者さん自身が驚くことが多いです。体の抵抗力が落ちている時には症状も強く出ます。この場合は治療は限定的なものとして内服薬も使って炎症が落ち着くのを待つという選択も考えられます。