当院は、完全自費診療の歯科ですので、一番最初の歯医者だと言う患者さんはまずいません。みなさん、他院からの転院になります。
すぐに歯を抜かないといけないと診断された。
当院は、他院と違ってヒアリングの専用の時間をとっています。保険診療の場合、ヒアリングの時間をとらずに治療にうつるというところがほとんどです。
参考みんな知ってた?歯医者の保険診療と自由診療の違いがわかる具体例
例えば、患者さんの要望を聞かずにこんなことをいう歯科医院もいます。
「直ぐに歯を抜かないといけないと言われました」
Yサン(40歳女性)は何年も前に治した右上の銀歯が以前から調子が悪く、痛みや腫れを繰り返していましたが、仕事が忙しくまだ放っておいても大丈夫かしら・・・と思い、ズルズルと過ごしていました。
1週間ほど前から仕事が忙しく睡眠不足も続いたのか、右上の歯が痛くなり、顔まで腫れてきたのです。
以前かかったことがある歯医者さんは日曜は休診で、ネットで探して日曜日でもやっている歯医者を探して駆け込みました。
そこで、Yさんの説明もほどほどに聞いた医師はX線を撮り、Yさんに説明したそうです。
「右上の2本は歯茎が腫れて膿で骨が溶けています。これ以上悪くなる前に直ぐに抜いたほうが良いと思います。抜いた後はインプラントがいいでしょう」
Yさんも、悪いとは思っていましたし、抜歯も覚悟しなければいけないかも・・・という気持ちはありましたが、やはり抜歯と断定されると驚きと後悔と不安と色々な気持ちがよぎりました。
Yさんが納得いかなかったのは、「今日抜かないといけない」という医師の言葉でした。
自分が悪いとはいえこの後予定もあるし、気持ちの整理もあるし、もう少し先に延ばせないものかと歯医者さんに質問してみたものの、「とにかく一刻も早く抜いた方がいい」の一点張りでした。
その後のインプラントという治療もまだ漠然とした知識しかなく、不安が強くなってきたYさんは、少しだけ考えさせてほしいと伝え、帰ってきたそうです。
その後、当院にセカンドオピニオンにいらっしゃいました。
セカンドオピニオンを聞きたいということでお約束をいただきました。腫れや痛みは前医にもらった内服薬で大分落ち着いてきたとのことでした。
X線と口内の診査を行い、ご説明をしました。
治療診断結果
右上の銀歯2本は「歯根破折」による「歯周膿瘍」と診断しました。神経を取って治療をした歯に長年力がかかり続けると歯の根にヒビが入り、ヒビが大きくなって割れ目になります。
割れた部分の歯根膜は断裂して隙間ができるため口内の細菌が一気に侵入して局所的に炎症を起こします。
炎症の急性期は痛みや腫れが強くでますが、慢性化すると痛みを感じにくくなります。歯根破折を起こして、すでに細菌感染を起こしてしまった場合の治療は「抜歯」になります。
歯は神経がなくても硬さがあるので、修理すれば長年使えますが、割れてしまうともう使えません。ですので「抜歯」という診断になります。
治療方針
抜歯する場合は、内服薬(抗生物質は抗炎症薬など)で急性炎症が慢性炎症に治まっていることが望ましいです。腫れている時、たくさん膿が出ている時は炎症の急性期で麻酔が効きにくいです。ですので、痛みを伴いやすいですし、麻酔の量も増えます。
当然、抜いた後の痛みや腫れも強く出ることになりますので、患者さんの負担は増えることになります。
歯科では緊急的に抜歯というのはありません。炎症が広がって体全体の危険があるのであれば、直ぐに抗生物質の注射や点滴で入院です。
いかなる場合でも、原因の歯を抜く前に炎症を鎮めるコントロールをすることが最優先されます。
また、患者さんの全身状態や、病歴、内服薬によっても抜歯という外科処置の扱いは変わります。糖尿病やリウマチは傷が治りにくく、骨粗鬆症の内服薬の1種には抜歯に伴う顎の骨の壊死という偶発症が出ることがあります。
抜歯をした後の処置方針について
当院では抜歯をする前に、その後の治療方針を決めておきます。
抜歯をしてから決めるのではなく抜く前に決めるのです。入れ歯やブリッジであれば、事前に仮歯や仮の入れ歯を準備しておくことで、患者さんは歯がない状態を経験せずに済みます。インプラントでも仮の入れ歯を準備しておけば歯がない状態で不自由な生活をしなくて済みます。
抜いた後の治療方針は患者さんと相談して決定します。入れ歯、ブリッジ、インプラント、それぞれメリットデメリットがあり、全身状態や口内の状況(かみ合わせは歯周病など)によっても変わります。すべてインプラントが良いとは限りません。
まとめ
自分の歯のことを今すぐ決めろというのは、すごく難しい判断です。また、その判断が正しいとは、はっきり言って限りませんので、どうしてもわからない場合は、セカンドオピニオンをお願いした方がいいと思います。
万が一、診断結果が間違っていれば、歯の痛みが解消されないばかりか、治療の手間を増加させてしまう可能性がありますので、治療前の診断には細心の注意を払わなければなりません。
言うまでもなく、Yさんは、当院に転院しました。今も順調に経過しています。