虫歯の治療をご希望の女性のYさんがいらっしゃいました。
このYさんは、小さい頃から歯の治療を行っていたため、歯医者さんが苦手で怖くて通えないという典型的な歯科恐怖症に陥っていました。
Yさんが抱える悩み
- 小さい頃から歯が悪く、歯医者通いが途絶えたことがない。
- 小さい頃の歯医者の思い出はとにかく痛くて怖くて泣いていた。
- 働きだしてからも、怖い歯医者に勇気をもって、通っても1回の治療が15分ほどで終わってしまい、1本治るまでに半年以上かかってしまう。
- 先生と話すことも出来ない。何をされてるのかほとんどわからないまま終わってしまい、ちゃんと出来ているのか、また虫歯にならないか、治療の間もいつ痛くなるか不安に怯えながら治療を受けるのがとてつもなく辛くて怖い。
今この記事を見ているみなさんも、この悩みはわかるな!と思う方が多いと思います。
しかし、歯科恐怖症は克服しないと、どんどん大変なことになってしまいます。
「そんなことわかってる!けれど、、」
葛藤で板挟みになってしまいます。
そこで行なった治療
お話で不安と緊張でいっぱいのご様子。
経緯や症状をうまく説明できないことを「すみません」と何度も謝り、虫歯が多いのも、通いきれないのも「私が悪いんです」というYさん。
確かに虫歯は生活習慣病なので、自己責任の側面はあるものの、Yさんは幼少期から虫歯に苦しんでいます。これはYさんの責任というより保護者や関わった歯医者さんの責任といえます。
さらに、虫歯が多く、応急処置と予防処置を行いながら虫歯を食い止めていかなければならないはずなのに、保険制度の枠組み内での形式にとらわれた対応しかできず、その弊害を伝えることなく、説明もおざなりだとすれば歯科医院側にも問題はあるでしょう。
Yさんは日本人によくみられる歯科医(権威)に不満があっても逆らえず、その怒りを自分が悪い(自責)と変換してしまうタイプでした。
私は患者さんのこうした言動をそのまま受け取ることなく、患者さんの心の中で何が起きているのか理論的に診断していきます。
初回のお話を受けて、私からYさんにお話ししました。
- 「Yさんは悪くないこと」
- 「小さい頃の自分ではわからない時の習慣づけから悪循環が始まり、それが今でも続いている」
- 「自分を責めても歯は治らない、歯を治すためには治療が必要」
- 「治療は歯医者が行う治療と、自分で行う治療の歯ブラシがある」
- 「私はYさんが勇気を持って治療に望んでくれるならベストを尽くします、そしてYさんは自分の歯を自分の責任で治して、大事にしていくのです」
患者さんが診療台に座って、お口の中を見せてくれたり、X線を撮影出来たり、お口の写真を撮ることができれば行います。
そして、パソコンの画面で一緒にお口の中を見てもらい、どういう状況になっているかを確認してもらいます。
Yさんにとって過去の歯医者体験は辛く怖いものですが、かろうじて治療を受けることは出来ていました。ということは、歯科の治療は痛くなく、辛くなく、不安がないものなのだという学習をしてもらうのが最初のアプローチになります。
ただ優しくて丁寧な言葉遣いなら良いというわけではありません。
例えば、女性の先生やスタッフが優しく「痛くないですか?」と訊いたとします。これはNGです。
「痛い」という単語が入れば、患者さんは「あ、痛いことをするんだ、今痛いことをしてるんだ」と考え始めます。こちらの一挙手一投足で患者さんの心持ちは変わります。
当然、学習するまでも怖いわけですので、様々なアプローチで不安を和らげていきます。
環境も大事です。当院の場合は、院内は静かで落ち着いた雰囲気の空間で、個室になっています。
オープンなフロアより、区切られた部屋(個室)が望ましいです。
隣の音も匂いも話し声もすべて聞こえている環境でリラックスするのは不可能に近いと思います。コミュニケーションの取り方は患者さんの状態によって臨機応変に変えていきます。
歯科恐怖症の患者さんにとって「麻酔」は大きなハードルです。麻酔をしてほしくないという患者さんもいます。麻酔は痛いから嫌だと。痛くない麻酔を経験してもらえれば、治療中は痛くありませんので、安心していられます。
麻酔は表面麻酔という塗り薬を使いますので、針の感覚は無いか、とても弱くなります。緊張すれば痛みも感じやすくなります。コミュニケーションや体勢、呼吸法など、ありとあらゆる方法で麻酔のハードルを下げる努力をします。
Yさんは、初めこそ手が震えるくらい緊張していましたが、数回の治療を重ねるごとに少しづつ手の震えも治まり普通に治療を受けられるようになりました。
虫歯がたくさんありましたが、その中でも大きな虫歯であったセラミック治療を行いました。
右上の奥歯です。銀歯の詰め物の歯ですが、透けて黒くなっています。痛みはありません。
大人の虫歯は痛みがなく進行することが多く、中を診てみるとすいぶんと進行していることがめずらしくありません。
Yさんの歯も銀歯の詰め物の下は虫歯は進行して広がっていました。虫歯を慎重に取り神経を残すことが出来ました。
形を整えて、型どり、セラミックの歯を作って接着して治療は完了です。