インプラントは虫歯や歯周病、先天的に歯がない場合や外傷で歯を失った場合に歯を補うために応用される治療法です。顎の骨の中にインプラント体を埋めて、人工の歯を連結します。インプラントは異物を体内に埋めて、共存させますので治療に際しては、様々な角度から検討する必要があります。
例えば、歯周病を治療せずにそのままの状態でインプラントを埋め込むことは、インプラントにも歯周病が感染ってしまい、インプラントが短命に終わる可能性が高まります。噛み合わせも重要な要素です。誰でもどんな場合でも適応される治療法ではありません。
歯周病や噛み合わせの診査や治療をしないまま歯をインプラントに変えるような治療は、望ましいものではありません。インプラント治療は高額です。そして、うまくメインテナンスをすれば、数十年に渡って利用可能です。
インプラントとは?
インプラント治療は、スウェーデンの整形外科医であるブローネマルク先生によって確立された失った歯を補う治療方法です。
偶然、動物実験で骨とチタンが結合することを発見し、これが歯科治療に応用できるとしてデンタルインプラントを確立したのです。この時の患者さんは上下の歯がない状態から、インプラント手術後、41年もの間インプラントの歯で生活をしました。
虫歯や歯周病、事故などで歯を失った場合、もしくは先天的に歯がない場合などに歯を補う治療が施されます。通常は入れ歯やブリッジなどがそれに当たります。顎の骨にチタン製のインプラント体を埋め込み、歯や入れ歯の支えとすることで歯を補うのがインプラント治療です。
インプラント治療の優位点としては、入れ歯やブリッジではしっかり噛めない、入れ歯を使うことへの精神的な抵抗、審美的な問題などを解決できます。
インプラント治療を行う際の注意点
インプラント治療には、複数の注意点があります。
体に金属を入れて問題ないのか?(金属アレルギーの有無)
多くのインプラントはチタン、もしくはチタン合金で出来ています。チタンは生体親和性と云って体に拒絶反応がでない材料ですので、何十年も体の中にあっても問題が起きないとされています。
稀にチタンでも金属アレルギーが出る人もいます。金属アレルギーを持っている方は念のために事前に検査を行なうと良いでしょう。
歯周病があるのか?
歯周病をそのままにして治療を実施すると、元の口内が健康でないために、噛み合わせなどがうまくいかない状態になります。必ずインプラント治療を実施する際は、先に歯周病の治療を実施します。
以前も紹介した「ひどい歯周病を治療せずにインプラントを入れられて、インプラントが次々と抜け落ちていくのを食い止めることが出来た例」がちょうどこれに該当します。
歯科治療のやり直しによる治療費の負担増もありますが、精神的にダメージを大きく受けてしまいます。
インプラント治療のメリットとは?代替の治療法に比べるとどうなのか?
- 入れ歯やブリッジと違い、自分の歯に負担をかけない。
- 入れ歯はバネをかける歯を補強するため、ブリッジは失った歯の両隣の歯を削らなくてはならないが、インプラントは新しく削る必要性がない。
- 入れ歯と比べると噛みごたえがある、自分の歯に極めて近い。
- 奥の大臼歯を失うと、ブリッジでは治療できない。
- 入れ歯は後ろに歯がないため反対側まで義歯を延ばして大きくしないと安定しない。
インプラントなら今までの歯と同じように奥歯でしっかりと噛めて違和感がない。 - 総入れ歯は前歯で噛めず、食べ物を小さくして奥歯で噛む道具。数年ごとに痩せた骨の分を裏打ちして合わせ直ししなくてはならない。そしてかみ合わせは次第にズレやすくなり、骨も少なくなると入れ歯の安定も失われる。インプラントは4~6本ですべての歯を補うことができて、なんでも気にせず噛むことが出来る。
- 入れ歯は外れることに気をつけながら食べなくてはならないが、インプラントと入れ歯を磁石やフックで止めると、簡単に取れなくなり安定させることが可能。(インプラント維持のオーバーデンチャ)
インプラント治療にデメリットは存在するのか?
①歯は骨と歯根膜という靭帯でつながっており、これが噛む感覚を伝え、またクッションのような働きをしている。一方インプラントは骨とチタンが直接つながっている。
噛む力のコントロールが弱く、強く噛みすぎてしまう傾向がある。インプラントと相対する歯は噛み締めなどの癖が出ると違和感や時々痛みを感じる。
②天然の歯は歯と歯の間がすり減ることで次第に前方へ移動する。ところがインプラントは骨と直接つながっているため、全く動かない。このため、部分的に治療したインプラントと自分の歯との間に隙間が生じることがある。
③矯正治療が難しくなる、またはできなくなる。インプラントは歯根膜がなく、骨と直接つながっているため、矯正治療で力をかけても一切動かない。天然の歯は歯根膜で骨とつながっているため、矯正力をかけると歯が動く。インプラントがすでに入っている場合は、インプラントは動かないことが障害になる場合があります。また、インプラント周囲の歯が動きにくくなります。
(インプラントをアンカーにして歯を引っ張ることが出来る、というメリットもあります)
④免疫機能が天然の歯に比べると弱い。インプラントと歯肉の関係は天然の歯と歯肉の関係と似ていますが、その免疫機能には差があります。歯茎は天然の歯にしっかりと結合しますが、インプラントと歯肉の結合は弱いと云われています。インプラントは天然の歯に比べると歯周病(インプラント周囲炎)になりやすいのです。
⑤インプラントと骨との結合は非常に強固です。一度骨結合を果たしたインプラントを取ることは容易ではありません。インプラント治療は慎重に検査・診断を行った後に、適切な場所に埋めなくてはなりません。
⑥インプラントは一度入れたら簡単に取れるものではなく、天然の歯と同じような歯列の変化にはついて行きません。元々のかみ合わせが不安定な場合には、将来的にかみ合わせどのように変化するのかを予測することは非常に困難です。したがって、若年者でかみ合わせが不安定な場合(上顎前突や下顎前突、下顎後退、著しい叢生など)はインプラントを避けてブリッジや入れ歯でもなるべく歯を削らないタイプのものを選択した方が安全と言えます。
インプラント治療でかかる費用の内訳とは?
各医院によって項目も金額も様々です。インプラントは自由診療ですので、各医院が自由に決められるため統一したものはありません。トータルの費用の適正価格は、1本あたり30万円~60万円程度です。
1本10万円の料金を下回っている格安治療で定時されているもののほとんどは、事前の口内の治療が入っていません。事前の検査や歯周病の治療をしっかり実施しないと、インプラントに不具合が発生しやすくなります。
当院の場合
診査診断(模型上シュミレーションやCT撮影) 20,000~60,000
外科手術(手術費、インプラントやドリルなどの器材費)1本200,000~
補綴治療(仮歯~セラミックや金属の歯の製作)220,000~
よくあるインプラント治療の疑問とその答え
インプラントは10年程度の寿命なのか?
インプラントが今までに最高持ったのは41年と言われています。正しい診断の元で治療されたインプラントは適切なメインテナンスが伴えばずっと使い続けられることが分かっています。
しかしながら、病気になった場合や磨けなくなった場合など、将来のことがすべて予測がつくわけではありません。かといってブリッジの治療には限界がありますし、入れ歯では噛めない方もいます。出来る範囲でメインテナンスを継続していくことが一番大切ですが、もしも状況が変化したら、それに応じて入れ歯に変更できるような方法を取ることも可能です。
インプラントは歯周病になるのか?
インプラントは歯が歯周病になるのと同じように、インプラント周囲炎になります。インプラントは体に異物を共存させていますので、歯よりも免疫力が弱いことも分かっています。しかしながら歯周病の原因は歯垢や歯石の歯周病原菌であり、「老化」ではありません。歯周病は感染症であり予防できる病気なのです。インプラントも同じです。歯垢や歯石がつかないようにブラッシングをしてメインテナンスしてゆけば簡単にインプラント周囲炎になることはありません。
インプラントが骨とくっつかなかったという友人がいる、失敗の理由はなにか?
インプラントは骨と結合する成功率は上顎で約94~96%、下顎で約97~98%と云われています。失敗が起きる場合の理由は、骨が柔らかすぎる→インプラントは木ねじのように骨の中にねじ込んで固定します。固定が弱く、遊びがあると骨との結合がうまくいかない可能性が増えます。
骨の中に病変が残っていた場合→抜歯した時に骨の内部に病変が残ってしまった場合でインプラントに触れているような場合、骨が硬すぎる→骨が硬すぎると骨を削る時に熱が出てしまい、骨が火傷してしまいます。火傷した骨とインプラントは結合しません。
手術手技の問題→インプラントは歯科医が手作業で埋めていく外科手術です。そこには技術的な差もあると考えられます。
体(病気)の理由→怪我が治りにくい病気(糖尿病やリウマチ)や免疫力が低下している場合(抗がん剤)、ヘビースモーカー、骨粗鬆症など。また高血圧薬や胃薬などでも常用することで骨代謝に影響が出ることがあります。薬だけでなく、栄養状態が著しく悪ければやはり骨の代謝に問題が起きやすいと云えます。
インプラントを埋める手術は痛くて腫れて大変なのか?
手術前の体調管理ができていれば、それほど大変なことにはなりません。翌日以降痛み止めを使う必要性は少ないです。
骨に穴を開けて、チタン製のネジを埋め込みますので、体は怪我をします。怪我を治そうとした結果が腫れとして出ます。腫れは大きめの飴玉を舐めているような感じです。下顎は腫れますが、上顎はあまり腫れません。腫れは体が治そうとしている反応です。冷やしすぎると血の流れが滞ってかえって腫れは引かなくなります手術時間が長い場合も体に負担をかけますので腫れや痛みの原因となりえます。当院では1~2時間が手術時間です。
手術の手技(技術)も腫れや痛みが強くなる一因です。
インプラント治療はどういう進み方をするのか?
診査診断→通常の歯科の検査に加えてCT撮影や模型上のシュミレーションを行います。体の状態を知るために、健康診断の結果も必要です。
1次手術→麻酔下でインプラントを骨の中に埋める外科手術を行います。
2次手術→1次手術で埋めたインプラント上の歯茎に切開を加えて骨内のインプラントが骨と結合していることを確認します。確認したら部品をつなげます。歯茎が部品の形に合わせて治ると人工歯を作る準備が整います
型採り、人工の歯を作る→まずはプラスティック製の仮歯を装着します。その後セラミックや金属で作られた人工歯を取り付けます。
メインテナンス→かみ合わせや磨き具合をチェックして、磨けていない部分は歯科医院で専用の道具で洗浄していきます。
インプラント手術の方法には種類があるか?選ぶ基準は?
インプラントは骨の中に埋めてから2~4ヶ月で骨と結合します。インプラントを完全に歯茎の中に埋め込んで見えない状態にする方法(2回法)と埋めたインプラントに部品をつなげて治りを待つ(1回法)2種類の手術方法があります。
2回法がスタンダードですので、1回法のメリットとデメリットを説明します。
歯茎から部品が出ますので、食べ物が強く当たらない工夫が必要です。初めの1~2ヶ月が骨と結合する大事な期間ですが、この時に部品を使って噛むと、骨との結合が壊れてしまう場合があります。
2回目の歯茎を切開する手術が必要ないことが最大のメリットです。しかしながら1回目の手術で術後の歯茎の形や量は決まってしまいます。歯茎の量が少ないと歯ブラシが難しくなります。2回法では2回目の手術で歯茎を増やせます。歯茎の量がたくさんあれば問題ありませんが、日本人では限られた状況とも云えます。
歯周病でもインプラントはできるか?
歯周病はインプラントを埋める前に初期治療は終わらせておかなければなりません。インプラントが歯茎を貫いて口内に出た瞬間に口内の歯周病原菌がインプラントに感染します。重度な歯周病であればかみ合わせにも問題が起きてきますので、インプラントを埋める性格な位置が特定出来ない場合があります。
CTやMRIが撮れなくなると云われた、本当か?
チタン製のインプラントが口内にあればCTは多少影響を受けますが、これば他の虫歯の治療に使う金属も同じです。また以前のCTと比較して画像の乱れは少なくなってきました。
MRIは磁気を使いますので、磁石を使ったインプラント治療では画像が乱れます。これは入れ歯を磁石を使ってインプラントに固定させる治療の場合です。磁石は外す入れ歯側についていますので、画像診査の時だけ、義歯を外していただければ問題ありません。
将来、自分で磨けなくなったらどうするのか?
インプラントと人工歯をつなぐ方法には2種類あります。
通常の差し歯のように接着剤で留める方法と、ネジで留める方法です。接着剤で留めた場合には、歯の治療と同じように壊さなけれ外れませんが、ネジで留めた場合は、容易に外すことが出来ます。心配であれば、インプラントの人工歯を外して入れ歯にすることが可能です。
ただし、むやみに交換することはお勧めしません。インプラントだけが問題を起こすわけではありません。歯も磨く必要があります。インプラントが歯と同じような形で口内にあれば、そのまま第3者に清掃してもらう方が磨きやすく、管理しやすいと言えます。
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