親知らずは抜かなくてはいけない歯であるということは本当でしょうか?
親知らずは噛み合っていなければ基本的に機能をしていない歯です。なくても構いません。
しかし、親知らずでもまっすぐに生えて上下で噛み合い、自分でキレイに磨くことが出来たら、抜歯する必要はありません。
「痛い、噛み合わせがおかしくなった」などの理由で、親知らずの歯を抜かなきゃよかったと後悔している人も少なくありません。ただし、多くの場合は磨き残しなどが原因で、親知らずが痛んで抜歯になる可能性のほうが高いことは事実でもあります。
親知らずを抜かなきゃよかったと思う人は意外に多い。
親知らずの抜歯した後に痛みや嚙み合わせの違和感など悩む方がが意外に多いようです。実際に当院のウェブサイトをみるきっかけになったキーワードの調査を行うと、「親知らず 抜かなきゃよかった」とダイレクトに検索する方がものすごく多いです。1日平均で、130人の方が検索しています。
これらの人は、親知らずを抜いたことが原因で、なんらかの悩みを抱えているか、これから歯科医に親知らずを抜いた方が良いと言われ、実際抜くとどうなるのかを調べている方だと思います。
親知らずの歯は、機能していない歯ですので、あっても意味のない歯です。そのため、将来虫歯になって治療が必要になる、歯周病の原因になるのであれば抜歯してしまった方が良いと判断する歯科医の先生は多いです。
ただし、抜歯の際はリスクや注意点があります。特に下の親知らずは、生え方次第で神経に近く、下唇の感覚に影響を与える可能性があります。
また、親知らずの痛みに違いないと決めつけていても、実際は原因が違う場合もあります。なんの説明もなく、親知らずの抜歯が決まり、抜歯した結果、やっぱり痛かったでは困りますね。
そのため、治療を開始する前に、しっかりした診査検査を実施し、治療方針を決めることが重要です。
親知らずの歯を抜かなくても良い場合
実は、親知らずの歯が痛いと思っていても、実は、その痛みの原因が親知らずの歯ではないことがあります。
親知らず付近の痛みは、親知らずの手前の歯が痛みの原因の場合があるからです。
また、虫歯や神経の炎症、噛み合わせから来る違和感なども可能性として挙げることができます。
壮年期以上で親知らず付近の痛みを感じている場合は、どの歯が原因なのか、よく調べることが重要です。なぜなら、50代を過ぎると、骨の中に埋まった親知らずの抜歯は治りも遅く、患者さんに大きな負担をかけます。必要性がなければ抜歯は行わず、経過を見ていく選択肢もあります。
その壮年期以上の親知らずを抜歯せずに済んだ実例について紹介したいと思います。
親知らずを抜かずに済んだ事例
これは、当院で治療を実施した50代男性の実例です。
北川俊哉
1996年 東京歯科大学卒業、藤本歯科医院で藤本順平先生に師事、藤本研修会スタッフ兼インストラクター、近藤歯科医院に勤務
2007 年 北川デンタルオフィス開院
保険を扱わない開業医。 他院で治らない、診てもらえない方の難治性の痛みや 歯科恐怖症、口臭治療、歯ぎしり食いしばりの治療などに積極的に心理療法を取り入れている。
下の奥歯が痛くて痛くて食事もままならず、仕事にも支障が出ている。
近医では下の一番奥の歯を骨の中に埋まっている親知らずが押していてそれが悪さをしていると言われた。
親知らずは骨の奥深くに埋まっていて顎の骨の中の太い神経にも近いので大学病院を紹介され、CTなどの検査を進めており、全身麻酔で抜歯を予定している。痛みは今も毎日続いており、日常生活がままならず精神的に参っている。
患者さんのご紹介で遠方の方でしたので、電話で問診しました。
問診の結果を以下にまとめます。
冷たいものや熱いものは、特にしみる。
この段階で、親知らずが原因でない可能性があると思われました。そこで、遠方からになりますが、来院をお願い致しました。
まず実施した検査でX線を撮影しました。画面向かって左下に横たわっているのが親知らずです。
30歳を過ぎた頃からは、生える力がなくなっていることが多いため、生える際の痛みや炎症の可能性はぐっと下がります。
50代で生える力があるとは考えられません。しかも「冷たい熱いがしみる」は歯の神経の痛みです。埋まっている親知らずはしみません。
親知らずの手前の歯には明らかな虫歯はありませんでしたが、歯髄の炎症はかみ合わせの力からも起きるものです。神経が炎症を起こしてる場合はX線だけではわかりませんが、歯髄に微弱な電流を流して生命力を調べることもできます。
私の診断は「親知らずの手前の歯の歯髄炎=歯の神経の炎症」でした。当日、神経を取り、翌日にはすっかり痛みから解放されたのです。もちろん親知らずの抜歯は中止しました。
親知らずが生える力がなくなった大人の場合は、痛みの原因をよく調べる必要があります。
この場合、仮に親知らずを抜歯しても痛みが解消せずに、別の原因を探る結果になっていました。
親知らずを抜歯した方が良い人の特徴は?
親知らずを抜くかどうかは、抜くことで患者さんにとって良いことが発生するかで考えます。
親知らずの周りの歯茎が腫れている
親知らずが生えてくる10代後半から20代の方によく見られるます。親知らずは歯茎の中に埋まっているか、途中まで生えているような状態です。まっすぐ生えて来そうであれば様子を見ますが、X線で明らかに斜めや横向きであれば早いうちに抜歯します。
親知らずが虫歯で痛い
歯茎から顔を出した親知らずは、他の歯と同じように磨き残しが続けば虫歯になります。虫歯を治すには、削る道具を奥まで入れる必要があります。治療自体もとても難しくなること、虫歯の治療をしたとしても磨けなければ、再び虫歯になります。
この場合は抜くか、抜かないで治療するかの判断が分かれます。
親知らずが歯茎の中に半分か完全に埋まっていて、手前の歯との間に歯垢が溜まりやすい
この場合は親知らずと手前の第2大臼歯の間で歯周病が進行します。親知らずと手前の歯の位置関係が重要ですが、抜ける場合は積極的に抜いて磨きやすい環境を作ります。
ある程度まっすぐに生えていたとしても、磨けない場合はやはり歯周病が進行しやすいです。親知らずを抜くことに抵抗があると思いますが、磨けない歯を残して、手前の第2大臼歯を失う事になっては一大事です。
手前の歯に虫歯や歯周病があり、親知らずを抜かないと治療できない
すでに親知らずの手前の第2大臼歯に歯周病や虫歯の問題が発生してしまった場合は親知らずを抜かないと治療ができない場合が多いです。すみやかに親知らずを抜いて、手前の歯を大事にすることをお勧めします。
親知らずを抜かない方が良い場合とは?
親知らずは、無くても困らない歯とされていますが、別の歯の治療に実は利用することが可能です。
ブリッジや入れ歯の支えに使う場合
手前の第2大臼歯がすでに抜歯しないといけないくらい虫歯や歯周病が進んでいる場合は親知らずを残しておくことが多いです。まっすぐ生えていればそのまま使いますし、斜めでも頭が出ていれば使うことは出来ます。
移植する歯として使う場合
抜歯した場所へ抜歯した親知らずを移植する、といった治療が可能な場合もあります。歯の移植はインプラント治療に比べて適応される条件が限られますし、成功率も低くなります。担当の先生とよく相談してください。
矯正で移動させて使う
手前の第2大臼歯を失ってしまう場合は、親知らずが埋まっていても矯正で引っ張り出すことができます。これも適応症は限られます。第2大臼歯の分、手前に平行移動ということも検討出来ますが、元々動きにくい歯ですので、治療は困難で現実的ではない場合もあります。
親知らずの抜歯方法
親知らずの抜歯方法はその生え方で3つに分かれます。
- 親知らずの頭が出ている時→小さなスコップみたいな道具を歯と歯茎の隙間にねじ込んで梃子の原理で歯を浮かせます。
- 親知らずの頭が半分未満しか出ていない時→歯茎を一部切って小さなスコップをねじ込みます。歯茎は糸で縫います。
- 親知らずが完全に歯茎の中に埋まっている時→歯茎を一部切って、親知らずを切ってバラバラにして取り出します。歯茎は糸で縫います。
抜歯の難易度
- 上顎の親知らずの場合→上の親知らずは生えていれば、他のどの歯よりも抜歯は簡単です。理由は、後ろに歯がないことと、上顎の骨は柔らかいことです。埋まっている場合は、下顎よりも道具が入りにくいので、少し難しくなります。
- 下顎の親知らずの場合→いわゆる親知らずの抜歯が大変というのは、下顎の親知らずで歯茎の中に横たわるように埋まっている場合です。下顎の奥の骨は最も硬く、削れば腫れます。生えていれば、腫れることなく他の歯と同じように抜歯できます。
最後に
再三になりますが、親知らずを残すか、抜歯するかは、患者さんのメリットによります。親知らずは、条件が限られていますが、歯の治療にも活用することができますので、担当の歯科医の先生としっかり相談することが重要になります。