歯周病はもっとも有名な歯にまつわる病気の一つで、健康的な生活を脅かす要素の一つになっております。この歯周病は、後述しますが、日本人で最も患っている口内の病気であり、定期的なケアを続けても再発する可能性があります。
インプラント治療や根幹治療など行う際に、健康な歯茎でなければ、そもそも土台が崩壊している状態になりますので、先に歯周病を治療する必要性があります。過去に歯科治療で良い思い出がないなどがあれば、十分な歯周病治療を実施しなかった可能性が高いです。
1.歯周病とは?
日本人成人の8割以上がなんらかの歯周病に罹っていると言われています。歯周病は誰しもがなる可能性がありますが、2割の人々が歯周病を患っていないことになります。つまり、歯周病は絶対に患う病気ではなく、回避することも可能な病気だということです。
歯周病の発生は以下のようになります。
- 食べかすを放置して口内の細菌が歯垢を作って歯に付着します。
- 歯垢内の歯周病菌は毒を作って歯茎、歯根膜、歯槽骨といった歯を支える組織を攻撃するという仕組みになっています。
つまり、歯垢が長期間歯に付着していなければ歯周病にはなりません。
日々のブラッシングやフロッシング歯間ブラシなどのセルフケアと定期的に歯医者さんで手の届きにくい部分のクリーニングを受けることで歯周病は防ぐことができます。
歯周病の3つのSがある。
歯周病には3つのSがあり、それらは歯周病の特徴を説明しているものになります。自覚症状がなく、患っている人が多く、予防できる病気であるということです。
“Silent disease” →歯周病は痛みも自覚症状もなく進行します。気づいた時には重症化していることが多いのです。
“Social disease”→かつては歯槽膿漏と呼ばれ、高齢者の病気と思われていましたが、30代以上で8割以上の罹患率と云われています。もちろん、10代20代でも歯肉炎はありますし、若年者でも罹る歯周病もあります。
“Self controllable disease”→歯周病は予防できる病気でもあります。日々のセルフケアと歯医者さんでの定期的なプロフェショナルケアで予防が可能な病気でもあるのです。
歯周病は治療が可能なのか?
歯周病は治すことができる病気です。かつては治すことができないといわれていましたが、現在では治療方法が確立されています。歯周病は歯に付着した歯垢にいる歯周病菌が原因です。歯垢や歯垢の住処である歯石を取り除くことで歯周病は治ります。
歯周病が治らない原因は以下の要素にあります。
- 毎食後の歯みがきが上手くいっていない
- 歯垢歯石が取り切れないくらい進行している
- ヘビースモーカーだった、または喫煙を続けている
- 内服薬や体の病気で治りにくくなっている
- 食生活の偏りで栄養が不足して治癒力や免疫力が低下している
- 食いしばりや歯ぎしりなど歯に力のストレスが強くかかっている
日々のセルフケアが上手くいかないなど歯垢が増える原因が続けば初発よりも早く歯周病が再発しやすいです。生活習慣病ですので、生涯をかけて予防していくという考えでなければなりません。
2.歯科医院で実施する歯周病治療の方法とは?
では、実際に歯周病の治療では、歯科医はどのようなことを実施するのでしょうか?
歯周病治療の流れは、以下の7つの順に実施します。
①検査・診断
②歯周基本治療
③再評価
④歯周外科治療
⑤再評価
⑥口腔機能回復治療
⑦メインテナンス
検査・診査
検査や診査では以下の項目をチェックします。この部分は、口内をしっかり把握し、治療の方針を決定するとても重要なことです。
- BOP(ブリーディングオンプロービング=歯肉の炎症)
- プロービングポケットデプス(歯周ポケットの深さ)
- アタッチメントレベル(歯周組織の量の評価)
- 動揺度
- プラークリテンションファクター(プラークコントロールを難しくする状態で歯列不正や不適合修復物、虫歯、歯肉歯槽粘膜の異常、歯の形態異常、口腔前庭狭小、口呼吸、歯頚部の楔状欠損などを指す)
- X線診査
- 口腔内写真
- 口腔内細菌検査
- 唾液検査
- 全身的疾患の評価
- 栄養状態の評価
初期治療(歯周基本治療)
初期治療は「プラークコントロール」「縁上スケーリング、PMTC」「SRP(スケーリング、ルートプレーニング)」になります。
また、かみ合わせの調整や保存不可能な歯の抜歯、ぐらつく歯の固定などもこの時に行います。
プラークコントロールとは、患者さん、自身でお口の中の食べカス、歯垢を取るブラッシング、フロッシングを学習して上手になっていただきます。歯周病になったという事は、食べカスや歯垢などの汚れが取りきれていないという事だからです。
歯の表面にこびりついた歯垢歯石や着色なども除去して、汚れの付きにくい歯の表面へと磨いていきます。まずは歯茎から上の見えている部分を行います。(縁上スケーリング、PMTC)
同時にプラークコントロールが改善する事で、歯肉炎は治癒します。
続いて歯茎の中、歯の根の表面にこびりついた歯垢歯石を除去します。(SRP)歯茎の中にスケーラーと呼ばれる小さな器具を潜り込ませて行います。多くの場合は痛みを伴うので、麻酔下で行います。一度に全ての部位を行う事は出来ないので、全体的に必要な場合は4〜6回に分けて行います。
スケーラーにはハンドスケーラーと、超音波スケーラーがあります。
再評価
SRP終了後、2ヶ月程度で治癒します。
ここで検査・診断で行った歯周組織検査を行います。
治癒していれば、メインテナンス(サポーティブペリオドンタルセラピー)になります。
治癒していない、部分がある場合は、歯周外科治療に移ります。
歯周外科治療
歯周基本治療で取り切れなかった歯垢歯石の除去を行います。
- フラップ手術
- 歯肉切除術
- 再生療法(エムドゲインの応用、GTR法、リグロスの応用など)
- GBR法、骨移植術
- 歯周形成外科手術
- ReSRP(再度SRPを行う)
再評価
歯周外科治療後、約3ヶ月で治ったか歯周組織検査を行います。
口腔機能回復治療
歯周病治療に伴い、失った機能の回復、審美性の回復を行います。
- 咬合治療
- 修復・補綴治療(詰め物や、インプラント、クラウン、ブリッジ、入れ歯など)
- 矯正治療
メインテナンス
歯周病はすべてが元通りに治るとは限りません。
歯周ポケットが残ったり、プラークコントロールが難しい部分があり、磨き残しから再発を起こしたりと、治療後はメインテナンスを続けていくことが大切です。3~6ヶ月の間隔で歯周組織検査とPMTC、プラークコントロールの維持を行います。
Q 歯周病治療の治療例
従来の歯周病治療では、一度失われた骨を再生することは不可能でした。近年組織を再生する特殊な薬剤などが開発・使用され、成功事例もたくさん報告されていますが、現在は手術そのものに賛否両論あります。
私たちのチームは切ったり縫ったりする、従来の歯周病の手術とは全く異な る概念で骨を再生させることに成功しています。
強拡大(8~10倍)の拡大鏡と、手術用顕微鏡をフルタイムで使用することで、限りなく身体を傷つけずに悪いもの(歯垢や歯石)を除去するといういわゆる内視鏡的な処置をルーティンに行い、本来身体が持っている自己治癒能力を最大限引き出すことに成功しています。
左が治療前で、右が治療後。炎症がなくなっている。
歯周病治療にマウスピースを使うことがある。
マウスピースを利用した3DSとは、歯周病の原因は歯周病の細菌であることに注目して、口腔内の細菌を減らすという治療法です。患者さんに合うマウスピースを作成、そこに除菌を目的とした薬剤を入れて、5分ほど待ちます。5分経ったらマウスピースを外してうがいをして終了です。
歯科医院ではの表面にこびりついている歯垢歯石を取ってからでないと、薬剤が歯肉に効果的に触れません。歯垢や歯石はバイオフィルムという形で歯にこびりついています。細菌が作りだしたネバネバの中にいるので、抗生剤や抗菌ジェルは効果はありません。
正しい歯周病治療を行い、プラークコントロールをして、その上での補助的なものと考えます。
歯周病治療薬とは?
歯周病治療には薬も存在します。
リグロスとは?
リグロスとは一般名:トラフェルミン、世界初の歯周組織再生医薬品で遺伝子組換えヒトbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)製剤で歯槽骨、セメント質及び歯根膜の再生を促進し、結合組織付着を形成させます。
歯周外科手術のフラップ手術を行い、歯垢歯石を完全に除去した後に、リグロスを塗布して歯肉を縫い合わせます。血餅で満たされた骨欠損部に未分化間葉細胞が遊走し、これが歯槽骨、セメント質及び歯根膜の再生へと繋がります。
リグロスは従来の再生療法で使用されているエムドゲインよりも効果が高いとされていますが臨床にでてまだ間もないため、実績としてはこれからになります。期待をもって、慎重に使用していくべきでしょう。
ヒノボロンとは?
ヒノキチオール, ヒドロコルチゾン酢酸エステル, アミノ安息香酸エチルのことを指します。
ヒノキチオールはシダやヒバなどの植物に含まれる芳香族化合物の一つで抗菌効果がある。歯周病の原因である細菌に抗菌効果が期待できます。
ヒドロコルチゾン酢酸エステルは,糖質コルチコイド(ステロイド)で炎症を鎮める効果があります。
アミノ安息香酸エチルは局所麻酔薬の一種で麻酔効果があります。
歯肉炎や歯周炎の炎症のある歯肉に塗布することで、歯肉の炎症を鎮める効果が期待できます。歯科医院への来院が難しい場合や治療が困難な場合に対処療法として使用できます。
歯周病の原因は歯垢歯石であり、バイオフィルムとして歯にへばりついていることが原因です。これを除去することが必要であるので、ヒノポロンで腫れや痛みが落ち着いたら、適切な治療を受けるべきです。
自宅できる歯周病のケアの方法とは?
プラークコントロール
歯ブラシ、電動歯ブラシ、デンタルフロス、ウオーターピック、歯磨剤、うがい薬などを用いてプラークコントロールを行う。
禁煙
ニコチンは血管収縮作用があります。歯周組織は毛細血管が溢れた組織で細菌などの敵から免疫力で抵抗していますが、ニコチンの血管収縮作用で抵抗力がなくなります。長年の喫煙で歯肉は角化した先生の血流のない組織になりますので、歯周病が進行しやすく治らない状態になります。
栄養
私たちの体は食べたものでできています。タンパク質、ビタミンB群、ビタミンC,鉄など様々な栄養を偏りなく摂る努力が必要です。現代社会ではストレスが多く、運動不足になりがちで、誰しも満足がいく栄養状態ではありません。摂りきれないものはサプリメントも上手に活用しましょう。
ストレスケア
ストレスは体を酸化させ、病気を引き起こしやすくします。ストレスがなくなる事はありませんが、工夫して自分なりのストレスケアを心がけましょう。
内服薬
高血圧症、糖尿病、逆流性食道炎・・・現代病は様々な形で現れます。軽い内服薬と言えども、長期に亘って飲むことは身体に弊害をきたします。また、他科の内服薬との兼ね合いを考慮せずに投薬される場合もあります。できるだけ内服薬は少なく短くなるように心がけましょう。
文責:北川デンタルオフィス 代表 歯科医 北川俊哉
1996年 東京歯科大学卒業、藤本歯科医院で藤本順平先生に師事、藤本研修会スタッフ兼インストラクター、近藤歯科医院に勤務
2007 年 北川デンタルオフィス開院
保険を扱わない開業医。 他院で治らない、診てもらえない方の難治性の痛みや 歯科恐怖症、口臭治療、歯ぎしり食いしばりの治療などに積極的に心理療法を取り入れている。